AIを搭載した自動収穫ロボットの開発やそのロボットを活用したスマート農業を展開するAGRIST株式会社(以下アグリスト)。そんなアグリストで営業部新規事業開発責任者として働く尾見喜信さんは、個人農家から農業ITベンチャーであるアグリストに転職した異色の経歴をもちます。今回はそんな尾見さんに、農業に携わったきっかけや、アグリストへジョインした背景、今後の展望についてお話をお聞きしました。震災を通じたおばあちゃんとの出会い、農業に携わるきっかけに▲今回お話してくださった尾見さん私は農家の3代目で、祖父の時代から施設園芸農家だったのですが、絶対に農業はやりたくないと思っていました。その理由は、稼げなさそうだし、きつそうだし、汚いし、いわゆる3Kのイメージです。親からも農家を継ぐことを勧められていたわけではないので、20代の頃はコンサルティング会社と会計法人で働いていました。転機となったのが、30代の時に発生した東日本大震災です。実家の農家は茨城県にあったので近隣農家も含めて、風評被害で野菜がまったく売れなくなってしまいました。その一方で宮城県や岩手県に目を向けると、食料が不足している状況で。「残ってしまった野菜があるので、良ければお送りさせてください」と問い合わせたところ、「ぜひお願いします」という返答をいただいたので、何度か支援物資をお送りする活動を行なったのです。そんな支援物資の送り先の一つに、震災で被害に遭われたおばあちゃんがいて、そのおばあちゃんから数年後にお手紙をいただいたんです。「農業って大切だから、頑張ってね」といった内容で、復興し始めたことの意味も込めて海苔も一緒にいただきました。その手紙をいただいた時に、「一次産業って本当に大切で、いわば災害時も国防になるのに、世間的に虐げられるような存在なのはおかしいな」と感じました。そこから自分でまずは農業をやってみようと思い、農業を始めたのがそもそものきっかけです。▲尾見さんのキュウリハウス50代以降発展が難しい農業、解決策としてのM&A始めるにあたって農家としての経験値が溜まったら、その次のステップとして農業を変える活動がしたいと考えていました。まずは現場を知ろうと思って、もがきながら高設栽培や固形培地栽培など既存の栽培方法を学び、その時に初めてココカラさんと出会いました。(当時の尾見さんへのインタビューはこちら「【茨城】 ECの変化に気づかなかったら「ココピート最悪!」と思ったままだった。 茨城県筑西市キュウリ栽培農家の「培地座談会」vol.1」)そこから個人事業主として農業をやったり、農業に関するコンサルティングを行なっていた流れで、M&Aの認定支援機関になりました。なかなか表面化しないのですが、農業には50歳くらいになると、投資できなくなるという暗黙の了解があるんです。その理由は、後継者がいないですし、廃業時に借金があると辞められないからです。せっかく30代と40代で経験と勘のスキルが上がり、栽培が上手くなってきたのに、50代以降は最新設備の導入に投資ができないから発展していかない。このことは日本の農業が発展していかない要因の一つだと思い、課題として認識していました。そんな課題をM&Aで解決できると考え、農業M&Aの法人として活動していました。方向性が一致しアグリストへジョイン、農業の発展へただ一人では埒があかないと考え、資金調達をして農業M&A専門のプラットフォームを作ることを考えました。栽培データや作業データ、環境データ、会計データを網羅できれば、農業の事業承継がより活発になるし、他の業界からも参入が増え、6次化が進み収益性が上がる。結果的に「農業がもっと良くなれば素敵だな」と思っていました。そんな時に出会ったのが、アグリスト代表の斎藤潤一です。最初は常総農場の栽培管理者をさせてもらう話だったのですが、完全にジョインすることになった理由の一つが私自身がやろうとしていたことと、アグリストがやろうとしていたことが一致したからです。 アグリストが進めるAI農業パッケージの管理者をやりませんか?と声がけをいただいて、合流しました。AI農業で収量を上げていく話ももちろんですが、私的にはあらゆるデータが残っている農業経営体が増えることで継承もしやすくなり、結果的に農業の発展につながると考えています。事業継承にあたって人がいないと成り立たないので、教育も重要になります。アグリストでは、農業経営者を育成する「Smart Agri University(SAU)」を2025年4月から開講して、学びの場も創出していきます。(参考:https://agrist.com/sau)▲SAUの取り組み未来を作る生産者に今後に関して、壮大ですが新しい農業の未来を作りたいと思っています。10年前に何となく思い描いていたことのスタート地点に今来れたかな、と感じています。震災を通じたおばあちゃんとの出会いがなければ、ここまでどっぷり農業に携わっていなかったかもしれませんが、やっとスタートラインに立てたので後悔などは一切ありません。データやAIの活用、M&Aなどを通じて、農業の明るい未来を作っていきたいです。▲アグリストのピーマン収穫ロボットインタビュー日時2024年11月13日訪問先AGRIST株式会社 尾見喜信氏 / 宮崎県児湯郡新富町HPhttps://agrist.com/