生産地 :長野県松本市栽培作物 :夏秋イチゴ導入製品 :グロースラブ(TP2)<目次>長野県松本市で夏秋イチゴを栽培する株式会社佐藤工務店 佐藤亮太さんは、マルチが開いている部分のココピート(ヤシ殻培地)が乾燥するという課題を抱えていました。しかし、かん水パターンを少量多回数に変更することで課題解決へと繋がりました。さらに、収量の増加やハダニの減少、実割れの減少などのさまざまな副次的な効果もありました。課題はヤシ殻培地の乾燥長野県松本市に所在する株式会社佐藤工務店 佐藤亮太さんは、ココカラのグロースラブ(TP2)で夏秋イチゴ「すずあかね」を栽培しています。佐藤さんの記事はこちら松本市の8月の夏秋イチゴ栽培では、11L/時/mのチューブを用いて、ピートモス主体の培地に7分×7回程度のかん水をすることが多いそうです。佐藤さんも同様のかん水方法を採用していましたが、マルチの空いている部分のヤシ殻培地が乾いてしまうという課題を抱えていました。少量・多回数かん水で課題解決2022年よりかん水を10分×6回へ変更したところ、ヤシ殻培地の乾燥が改善されたそうです。さらに『隔離床栽培システム「ゆめ果菜恵」を利用したトマト栽培の潅水方法と培地特性』(重藤、平田、宇佐川, 2022)の論文を参照して、かん水を5分×12回へ変更したところ、植物の吸水量が劇的に増えました。佐藤さんは、慣れないヤシ殻培地に変更した当初に抱えていた課題に対して、さまざまな実験と検証を繰り返してきました。そして、適切なかん水パターンを突き詰めたことで、問題が大きく改善し、ほとんどの悩みが解決したと言います。効果1:植物の吸水向上による収量の増加前述のかん水方法の変更によって、ヤシ殻培地の乾燥改善だけでなく、さまざまな副次的効果が生じました。一つ目の効果は、植物の吸水が良くなったことで、樹勢が強くなり収量が増加したことです。また、少量多回数かん水により、低濃度で肥料を施用できるため、夏場の暑い時期に培地を継続的に冷却でき、植物にかかるストレスも軽減されたと話します。効果2:病害虫対策に二つ目の効果は、ヤシ殻培地の湿潤状態を保持できたことで、乾燥を好むハダニがほぼ発生しなくなったことです。ヤシ殻培地に変更して以来悩まされていたハダニ被害も、かん水パターンで解決することができました。効果3:イチゴの実割れも起こりにくい三つ目の効果は、実割れ(果皮のひび割れ)が起こりにくくなったことです。夏秋イチゴの「すずあかね」は、低温で且つかん水量が増えると、実割れの症状が増える傾向があります。そのため、少量多回数かん水方法の導入は消極的になりがちです。しかし佐藤さんは「ヤシ殻培地栽培では、少量多回数かん水でも実割れが起きにくい印象がある」と言います。佐藤さんが使用するダストを含まないココカラのTP2は、保水性と排水性のバランスがいいため、培地の冷却と塩類保持のバランスが難しい夏秋イチゴにも適しています。佐藤さんが参照した論文―ヤシ殻培地のかん水に関する実験の概要論文『隔離床栽培システム「ゆめ果菜恵」を利用したトマト栽培の潅水方法と培地特性』(重藤、平田、宇佐川, 2022)は、点滴タイプ(10 ㎝ピッチ)のかん水チューブを栽培槽(30cm幅)の中に1本設置して実施した実験について記したものです。作物を定植していない状態で、かん水の回数と培地への水浸透状態の違いを評価。すると、最も少量多回数である「1分×12 回/日」のかん水パターンにおいて、培地内のすべての測定位置で重量含水率が高いことがわかりました。(図1参照)また、栽培槽中の水平方向では、かん水チューブから離れた場所ほど乾燥しますが、少量多回数かん水にすることで、水分のムラが比較的緩和されることがわかりました。図1:潅水パターンによる培地の湿潤状態の違い(2019)出典:『隔離床栽培システム「ゆめ果菜恵」を利用したトマト栽培の潅水方法と培地特性』(重藤、平田、宇佐川, 2022)ヤシ殻培地は、吸水過程で繊維内に少しずつ水が浸入するため、土壌と比較して過去に含んだ水分量に依存して変化する傾向にあります。また、有機質培地は、一般の土壌に比べてpF値(土の湿り具合を表す値)の安定に時間がかかります。しかし、培地槽に培地を緩くつめることで、乾燥密度が低くなり、さらにこの差は広がると考えられます。そのため、求めるpF値と培地水分(体積含水率や含水比等)の関係を栽培槽で実測して、使用する培地の水分特性を把握しておくことが大切になります。