<目次>ヨーロッパや北米のトマトの施設園芸では、その95%が固形培地による養液栽培が適用されています。養液栽培における主要な培地は、ココピート、ピートモス、ロックウールですが、その違いについては、あまり研究されてきませんでした。そのため、生産者が培地を選定する基準は、「周囲の生産者が使っているから」「ハウスの建設時に推奨されたから」という安易な理由がほとんどで、実際に使用しながら作物にあっているかどうかを模索している状態です。そこで、学術誌『Flontiers in plant science』にて発表された培地別の特性比較記事を参考に、それぞれの培地の特徴や違いについて解説します。ぜひ、トマトの収量増加・品質向上のための培地選定の参考にしてください。 トマトの養液栽培で使用される培地のトレンド世界で使用されている固形培地の現状現在、世界で最もトマト栽培に使用されている固形培地はロックウールです。◆ ロックウールロックウールは、高い保水力を持つ点がトマト栽培において魅力です。原材料は、玄武岩や天然岩石で、遠心分離により繊維状に固めた無機培土です。一方で、国によっては使用済み培地の処理やリサイクルが難しく、廃棄コストがかかってしまい、結果、農家の経営を逼迫しているという課題があります。◆ ピートモスピートモス(泥炭)はミズゴケやスゲなどの植物が堆積して作られた泥炭(ピート)を乾燥させて細かく砕いたものです。有機資材で処理は容易ですが、泥炭地は限りある資源のため、無限に採取できるものではありません。このような課題を解決する代替培地として、近年多くの国でココピートが使用され始め、日本でも徐々に使用率は上がっています。◆ ココピートロックウールと同様、高い保水力を持つ点がトマト栽培において魅力です。また、ココヤシの中果皮を原材料としているため、有機100%です。しかし、ヤシのバライティー、産地、製造工程、場所(微生物の種類が異なる)によってココピートの品質が異なるため、品質を見極める必要があります。現在、世界中で年間約1,200万トンのココピート培地が使われていおり、日本でも徐々に使用率は上がっています。ここからは、学術誌『Flontiers in plant scienceに掲載された「Comparison of Coconut Coir, Rockwool, and Peat Cultivations for Tomato Production: Nutrient Balance, Plant Growth and Fruit Quality (トマト栽培のためのココピート、ロックウール、ピートモスの比較:栄養バランス、植物成長および果実品質)』を翻訳、要約し、トマト栽培におけるそれぞれの培地の特徴について説明します。培地とトマト栽培の関係性研究結果の結論、トマト栽培に最も適している培地はココピートです。では、なぜココピートが適していると言えるのでしょうか。培地中の保肥力や栄養素の移動、利用の可能性などの栄養バランス、トマトの生育と果実の品質の相関関係や、ミネラル成分の調整に影響を与える主要因等から明らかにしていきたいと思います。培地の特性比較この実験では、ロックウール、ココピート、ピートモス+バーミキュライト混合の培地が使用されています。光量、温度、播種日、定植日、培地サイズ、植栽密度(1㎡あたり2.4苗)などは、同一の条件下で実施。表1は、ECやpHなどをモニタリングし、各培地の物理的、化学的特性の相違点をまとめたものです。また、表より培地が保持する肥料成分量は、ピートモス、ココピート、ロックウールの順で高いことがわかります。ロックウールとココピートのEC・pHは類似傾向排液中のECはピートモス+バーミキュライトが他の培地よりも低い傾向がありました。また、pHに関してもピートモス+バーミキュライトだけが異なる推移を見せました。一方、ロックウール、ココピートはEC、pHともに類似の推移傾向がありました。トマトの収量と品質に影響を与える栄養成分この研究では、ミネラル成分を適切に管理することが、収量と作物の品質にとって大切だということも判明しました。栽培期間中の培地ごとの栄養成分について説明します。カリウム濃度が高いココピートすべての培地に共通して、培地中および排液中のカリウム濃度は、生育期間中に上昇。ただし、ピートモス+バーミキュライトに関しては、低い傾向にありました。ココピートは、培地中、排液中ともに最も高いカリウム濃度を示しました。カリウムは、トマトの果実品質を決定する上で大切な要素で、作物成長や果実重量に影響を与えている可能性があるとも言われています。ロックウール、ココピートはカルシウム、マグネシウム濃度が安定すべての培地において、培地中と排液中のカルシウムとマグネシウム濃度はともに、移植後23週間に上昇し続け、その後10週間は比較的安定していました。ピートモスとバーミキュライトには変動が見られた一方、ロックウールとココピートは安定していました。トマト栽培の場合、カルシウムの欠乏が尻腐れ病を引き起こすため、カルシウム濃度には留意しましょう。 硝酸塩、硝酸イオン濃度に培地間の差異なし培地中の硝酸塩、硝酸イオン濃度については、培地による差はみられませんでした。しかし、排水中の濃度はピートモス+バーミキュライトと他の2培地では、高濃度の時期が異なることがわかりました。リン酸濃度はココピートが高い培地中ならびに排液中のリン酸濃度については、ピートモスとバーミキュライトが明らかに低い値を示したのに対して、ココピートは高濃度をを示しました。培地中のイオン交換率もココピートが高い全生育期間において、培地中のカリウム/カルシウム交換率は、ココピートが最も高く、ピートモス+バーミキュライトが最も低いことがわかりました。 その数値は、ロックウールが1.6、ココピートが2.3、ピートモスとバーミキュライトが0.8でした。カリウム/カルシウム比率が低いほど、チャック果や窓あき果の発生割合が多いと言われています。また、いずれの数値も、養液と比較しても高い値を示し、中でも移植後 4 週目から 18 週目にかけてのココピートは他培地に比べてさらに高い数値を示しました。植物バイオマスが最も高いのは?さらに、培地によって植物バイオマス中のリン酸濃度にも差異があります。ココピート培地で栽培された作物は、植物中の窒素、リン酸、カリ、硫黄の蓄積が最も高いことがわかり、光合成においても、ココピートとピートモス+バーミキュライトに優位性が見られました。 果実重量、収量にも優位性が見られる果実重量に関しても、ココピートとピートモス+バーミキュライトに優位性が見られました。また、着果した花房の場所によってはココピートの果実収量が多く、結果的に総果実収量でもココピートが最も高いという結果が出ました。培地による果実の品質への影響は、まだわかっていない点も多々ありますが、第1花房では、ココピート培地で最も高い有機酸が認められました。 ココピートは、トマトの養液栽培に適しているこの実験では、肥料成分と水分の吸収量がトマトの生育に影響を与えることが分かりました。トマトの収量や品質の向上を目指すには、培地ごとの排水性や通気性だけではなく、培地中の保肥力や栄養素のバランスなどの特徴を理解することが大切です。ココピートは、作物成長や果実重量に影響を与えうるカリウム濃度が高く、結果として総果実収量もココピートが最も高いことが示されました。また、病気を引き起こすカルシウム欠乏や微量要素欠乏に対しても、ココピートは安定した結果が得られました。よって、この研究において、ココピートはトマトの養液栽培に適した培地だと言えます。ココカラのココピートの製品別成分表はこちら