<目次>裂果と水分量の関係性を理解し、かん水量をコントロールすることで、トマトの裂果を減らすことができます。今回は、ヤシ殻培地を使用したトマトの裂果について(参照「トマト裂果の種類と要因」 )、実際にコイアピットを使用している生産者の方のかん水管理による対策をご紹介します。ヤシ殻培地への切り替えの際には是非参考にしてみてください。ヤシ殻培地はロックウールより裂果が多い?ロックウールからヤシ殻培地に切り替えた際に、トマトの裂果が生じてしまうケースが報告されています。元来、ロックウールとヤシ殻培地は共に高い水分保持力があります。では、なぜヤシ殻培地だけ裂果が多いのでしょうか?宮本ら(2009)によると、「緻密な間隔構造を持ち、最も保持力(飽和点)が高く、古い水をゆっくりと排水していくというヤシ殻培地の特性」が関係しているようです。ロックウールに比べてヤシ殻培地は、かん水を止めた後に培地から水が抜け切るまでにかかる時間が長いのが特徴です。つまり、ロックウールとヤシ殻培地で、日没時の同じ時間にかん水を止めた場合、裂果が最も起こりやすい早朝の時間帯に、ヤシ殻培地内にはまだ水分が残っています。そして、果実が一番大きくなる早朝に、その残った水分が根から果実に流れることで、急激に果実が肥大化して裂果がおこってしまいます。夏秋トマトの裂果に関する具体的なかん水実験例鈴木、柳瀬(2005)の実験では、試験区を以下のように設定しかん水方法の違いが放射状裂果に及ぼす影響について調査しています。(1)標準区午前6時より1時間ごとに一株あたり250mlかん水、最大で1株あたり2,500ml (2)午後かん水区夜間の土壌水分を高めるため正午より1時間ごとに一株あたり500mlかん水、最大で1株あたり2,500ml(3)多量・少回数区土壌水分の変化を大きくするため、標準区の2〜3日相当のかん水を月、水、金の午前8時に一度のかん水。1週間あたりのかん水量は標準区と同等。(4)かん水制限区日射センサーを用いて曇りや雨の日には標準区より1日あたり最大500ml削減。実験結果は、総収量、販売可能収量、平均果重、総収穫数、放射状裂果数、くず放射状裂果数については区間で有意差はありませんでした。しかし、(1)標準区、(2)午後かん水区、(3)多量・少回数区では、8月下旬に放射状裂果数、くず放射状裂果数の発生率が最大になる傾向がありましたが、(4)かん水制限区では、9月中旬以降にほかの区より裂果トマトの数が少ない傾向が見られました。つまり、気候や天候に合わせた適切なかん水管理が重要です。また、いずれの区でも果実サイズが大きいほどに裂果が多く見られました。裂果の発生率を減少させるためのかん水管理複数の実験結果から、かん水回数は、裂果の発生に大きな影響を及ぼさないと言われていますが、かん水量が多くなるほど果実が肥大し、裂果が発生すると考えられています。また、気温や天候、培地の特性に合わせて適切なかん水量になるよう管理することが大切です。ヤシ殻培地のかん水管理でトマトの裂果を対策する方法・最も裂果が生じやすい日の出から2時間後にかん水を始める。・日の入りの3時間前にかん水を止め、早朝に培地内に水分が残らないようにする。・それでも玉割れが起こる場合は、さらに30分早く水を止める。ただし、裂果の原因はかん水管理だけでなく、ほかにもさまざまな要因がありますのでご留意ください。主な参考文献鈴木、柳瀬(2005)夏秋トマト雨よけ栽培における放射状裂果の発生に及ぼす潅水および整枝の影響宮本ら(2009)水分移動特性に基づく有機・無機培地内水分環境の評価岩崎、三枝(2001)培養液のNO3-N/NH4-N比がやし殻繊維を培地とする循環型養液栽培における培養液組成とトマトの生育・収量に及ぼす影響