<目次>ピートモスやピートモスの混合培地は国内外で一般的に使用されてきました。しかし、ピートモスは、泥炭の採掘によって湿地の生態系に影響を与えることが懸念されています。そのためイギリスでは、2022年8月に、2024年までに家庭菜園用のピートモスとピートモスを含む製品の販売が禁止されると発表されました。また、農業用についても2026年を期限としてピートモスの使用が段階的に削減され、2030年からは完全に販売が禁止されることがニュースになり国内外の関係者にも大きな衝撃を与えました。これを受けて、ヨーロッパ各国では環境配慮だけでなく、今後の入手価格の向上などの経済的な側面も勘案し、代替となる培地の研究が進められています。今後、日本でもピートモスの混合培地も含めて環境的、経済的に利用が難しくなるといったことが起こり得ます。そのため、培地をピートモスやピートモス混合培地からヤシガラ培地に切り替える場合に、気を付けるべきことを押さえることが大切です。この記事では、ヤシガラとピートモスの化学的、物理的な特性を比較しながら、ピートモスやピートモス混合培地からヤシガラ培地へ切り替えた場合の栽培上の注意点を解説します。ピートモスと比較したヤシガラの特徴イタリアでのレタスの育苗用に適したヤシガラ培地とピートモスの混合割合に関する研究(Collaら, 2006)や、植物生育のための成分をヤシガラ培地とピートモスで比較した研究(Holmanら, 2005)を中心に、ヤシガラとピートモスの化学的、物理的特性の違いを紹介します。<イタリアでのレタスの育苗用に適したヤシガラ培地とピートモスの混合割合に関する研究の施肥条件>いずれの培地にも、Nを6%、Pを6.5%、Kを2.5%、さらに微量のグアノベースの有機肥料を2.5 kg/m3の割合で施用した。また、CaCO3を添加して培地のpHを6.0付近まで上昇させた。1.ヤシガラはpHが低いので石灰は使用しないまず、施肥なしの状態で使用前のヤシガラとピートモスの特性を比べると、ヤシガラはピートモスよりも酸性度が低い(一般的にはpH - 5.5 ~ 6.5)傾向にあります(表1)。pH を最適値以上に上昇させてしまうため、石灰の使用はおすすめしません。おすすめは、硫酸カルシウムを主原料とする石こう等です。これを使うことで、pHの調整と同時にヤシガラに硫黄が少ないという問題も解決できます(Handreck and Black, 2002)。2.ヤシガラはECが高くモニタリングが必要また、ヤシガラは電気伝導率(EC)が高めです(表1)。レタスの育苗場合ではありますが、初期の生育サイクル初期の培地内のECも、ヤシガラの混合割合が増えるほどに増加し、ヤシガラ100%の培地で最も高くなりました。ただ、培地の割合では出芽率(平均95%)には影響がありませんでした。一方、培地内のEC値が高いと、シュート(主軸、茎とその上にできる多数の葉からなる)の生育低下が起こる可能性があるため、継続的なECのモニタリングと調整は重要です。培地pHCE(dS/m)C(%) g/kgNPKCaMgNaFeMnZn Cuヤシガラ5.51.0516.00.15.83.02.71.99438168ピートモス4.00.15512.00.10.11.92.20.1721641表1 ヤシガラとピートモスの化学組成出典:G. Collaら(2016)3.ヤシガラはC/N比が高め、窒素成分の追加が必要施肥前のヤシガラ培地の炭素率(C/N比)はピートモスよりかなり大きいです(表1)。ほかの文献でも、ヤシガラ培地の炭素が60で窒素が1程度(Savithri and Hameed, 1994)と報告されているため、基本的にヤシガラのC/N比は高いことがわかっています。C/N比が高いと、微生物によって可溶性窒素成分の固定化と考えられます。そうなると、土壌(培地)中の窒素が不足してしまい、シュートの生育低下が起こる懸念があります。しかし、緩効性肥料または有機肥料の追加等の施肥設計の調整や、窒素成分に代わるものを入れることでこの問題は解消されます。4.ヤシガラはK含有量が高く、Caが少ないヤシガラ培地はカリウムの含有量が非常に高く、カルシウムの含有量が低いため、カルシウムを添加することが重要です。5.ヤシガラは発根促進効果がある一方で、ヤシガラ培地は発根促進物質があり、また、物理的にも空間が見られるためピートモスより発根が促進されると言われています。実験結果からも、葉面積と根量/シュート比は、ヤシガラ培地の割合が増加するにつれて増えることがわかりました。施肥に気をつければ、ヤシガラのポテンシャルを発揮させた栽培が可能に。これらの論文では、ダストと繊維(2~5mm)を混合しているヤシガラ培地や、比較的低品質のヤシガラ培地が使用されています。ココカラはダストを除去した高品質なヤシガラ培地です。そのため、施肥を気を付けることで、より根張りがよくなりヤシガラ培地のポテンシャルを十分に発揮できると考えられます。参考G. Colla, Y. Rouphael, G. Possanzini, M. Cardarelli, O. Temperini, F. Saccardo, F. and Pierandrei, E. Rea, 2006, COCONUT COIR AS A POTTING MEDIA FOR ORGANIC LETTUCE TRANSPLANT PRODUCTION, International Society for Horticultural Science.Handreck, K. and N. Black, 2002, Growing Media for Ornamental Plants and Turf. 3rdEd. University of New South Wales Press Ltd. Sydney, Australia. ISBN 0 86840 7968.J. Holman, B. Bugbee,and J. K. Chard, 2005, A Comparison of Coconut Coir and Sphagnum Peat as Soil-less Media Components for Plant Growth, Utah State University.Tripetchkul, S., Pundee, K., Koonsrisuk, S. et al. Co-composting of coir pith and cow manure: initial C/N ratio vs physico-chemical changes. Int J Recycl Org Waste Agricult 1, 15 (2012). https://doi.org/10.1186/2251-7715-1-15