<目次>土壌診断とは、健康な作物を育てるための土台となる"土壌中の養分状態を把握"するために行います。土壌診断によって土壌の状態を知り、その結果に基づいて施肥や土壌改良を行うことで、収穫量の増加や品質向上にも寄与するため、経営にとってもメリットがある重要な施策です。今回は、その土壌診断の基本を解説していきます。土壌診断とは土壌診断には、化学性、物理性、生物性のそれぞれを測る方法があります。 化学性診断土壌の化学性とは、作物への肥料供給能力のことです。化学性診断では、土壌中の養分の過不足やそのバランス、土壌の酸性度(pH)などの植物の生育に不可欠な多量要素や微量要素を合わせて診断します。主な土壌の化学性診断項目は表1の通りです。そのほか鉄やマンガンなどの微量要素については定期的な診断は不要ですが、土壌中のpHの大きな変化や、作物の生育障害が疑われる場合などは専門機関に相談し、診断を実施すると良いでしょう。<主な土壌の化学性診断項目>pH(水素イオン濃度)溶液の酸性、アルカリ性施肥によって変化しやすいため、定期的に(毎年)実施するEC(電気伝導度)塩類濃度のめやす無機体態窒素アンモニア態窒素や硝酸態窒素可給態リン酸または有効態リン酸塩基類交換性カリ、交換性苦土、交換性石灰塩基飽和度陽イオンの保持割合塩基バランス苦土/カリ比、石灰/苦土比CEC(陽イオン交換容量)土壌の保肥力診断の頻度は低くてもよい(3年に1回程度)リン酸吸収係数リン酸が土壌中で固定している割合腐植含量土壌中の有機物蓄積量表1:主な土壌の化学性診断項目出典:一般財団法人 日本土壌協会(2020)物理性診断土壌の物理性とは、植物の根の生育にかかわる環境のことで、土壌のやわらかさ、排水性や水分保持力などが含まれます。物理性診断では、物理的に穴を掘り、作土層の深さ、作物の根の発達、各層の土性や種類の違い、土層の酸化や還元の度合い、土壌団粒構造の状況、硬盤層の有無などを診断します。診断をすることで、根張りや土のかたさ、水捌けの悪さ、病気の出やすさなどの原因も見えてきます。ただし、穴を掘る場所や時期、掘り方などにも注意が必要であるため、参考図書を参考に実施してください。また、近隣の農協や土壌医などへの依頼などもご検討ください。生物性診断土壌の生物性とは、土壌生物の多様性、土壌微生物の活性、有機物の分解力、病害虫への耐性が含まれます。生物性診断では、土壌から直接採取したDNAから、その土壌に特徴的な微生物の種類(細菌、糸状菌、センチュウなど)や、その多様性の違いを解析します。病気の発病のしやすさを診断することで、圃場すべてに同じ防除や施肥を行うのではなく、部分的に行うことが可能になるため、コスト削減と環境負荷の低減につながります。しかし、この診断は比較的新しい技術で、現段階では他の診断と比べると完全に確立されている状態ではありません。これらの化学性、物理性、生物性の診断は相互に関連しているため、一部分を見て一喜一憂するのではなく、総合的に判断し、対策を講じる必要があります。土壌診断は誰に頼む?土壌診断は、診断キットを用いて個人で実施することも可能です。化学性分析であれば、近隣の農協や肥料などの資材販売店が実施している場合が多いため、お問い合わせください。また、一般財団法人日本土壌協会が実施する土壌医の研修会や、東京農大発(株)全国土の会などのように、土壌診断の実施方法や、その結果の解析の仕方、それをもとにした施肥設計のやり方について学べる場もあります。土壌診断のメリットは?しかし、土壌診断は比較的安価とはいえコストがかかります。それでもなお、コストをかけて土壌診断を行うメリットはどのような点にあるのでしょうか。1.健康な作物を栽培でき、収穫量や品質アップ土壌診断で土壌に残っている養分を正しく理解すると、その後の施肥設計で足りない養分の追肥や、過剰な養分の減肥ができます。適切量の養分が土壌中にあると、植物が病気などにかかりにくく、その結果、収穫量や品質も向上することが大きな利点の一つです。2.肥料の削減でコストも削減また、資材費の削減にもなります。それは、植物にとって必要量と必要な種類の養分を追肥できるため、無駄な肥料を入れる必要がないからです。結果的にコスト削減にもつながります。3.病気への対策さらに、硝酸態窒素や可給態リン酸、交換性カリウムが土壌中に過剰に存在すると、塩基バランスが崩れ根瘤病や根腐れ病などの土壌病害の発生原因になる可能性があります。特にリン酸は固定化され蓄積している可能性があるため、土壌診断で土壌中に過剰にあることが分かった場合には、リン成分を施用しないなどの対策ができます。4.環境負荷の低減にも栽培上、経営上の利点だけでなく、環境へも良い影響が期待できます。窒素やリン酸などを過剰に施肥すると、富栄養化した土壌から硝酸態窒素などが河川に流れ出て、その結果、地下水や水質汚染につながります。土壌診断の結果を確認し、植物が吸収する最適な量と種類の施肥をすることで、環境への負荷も軽減されます。土壌診断で健康な作物を育てる健康な作物を育てるためには、まず土壌診断を定期的に行うことが基本です。その結果に基づいて、適切な種類と量の施肥をすることは、経営にとっても、環境影響への負荷の低減にとっても大切です。参考一般財団法人日本土壌協会 (2020)『土壌診断のきほん』誠文堂新光社久馬一剛(1997)『最新土壌学』朝倉書店藤原俊六郎(2013)『図解土壌の基礎知識』農文教