園芸用の培土として使用されているピートモス(泥炭)を巡って、世界各国で規制の動きが広がっています。気候変動対策の重要性が増す中、各国はどのような対応を進めているのでしょうか。気候変動に影響を与えるピートモスピートモス(泥炭)を巡る規制の動きは世界的に広がっています。その理由は、気候変動対策における泥炭地の重要性にあります。世界の泥炭地は陸地表面のわずか3%程度ですが、世界の非氷河性淡水の10%、世界の陸上炭素の30%を貯蔵しています。つまり、気候変動対策にとって重要です。さらに、ピートモスの形成には長い時間がかかります。多くの泥炭堆積物は8,000年以上前から堆積し続けてきたもので、熱帯地域でさえ1年間に0.5〜2mmの成長速度しかありません。温帯・亜寒帯ではさらに遅い成長速度になります。そのため、この再生が困難で炭素を貯留している資源である泥炭地を採掘することについて世界中で議論されています。ヨーロッパの規制の状況ピートモス規制の発端であるイギリスやヨーロッパの状況は、各国がそれぞれの実情に合わせた対応を進めています。販売禁止から採取規制まで、その取り組みは多岐にわたります。イギリス:期限設定による規制と新規ライセンスを付与せずイギリスは2025年末までに園芸用泥炭の販売を禁止する計画を進めています。イングランドとウェールズでは、2011年に設定された自主目標が達成できなかったことを受けての法的規制として、2024年までに趣味の園芸家向け、2028年までにプロフェッショナル向けの販売を禁止することを目指しています。また、商用利用の販売禁止に対する代替案も出されており、それは(1)泥炭製品の価格調整(泥炭製品と泥炭不使用製品の価格差をなくす)、(2)環境影響を警告するラベル表示の導入、(3)泥炭および泥炭ベース製品の販売量の報告義務化などが挙げられています。しかし、この禁止令は現在のピート採取のライセンスには直接影響しないものの、すべての採取ライセンスは2042年までに失効し、それ以降の新規ライセンス付与は行われません。つまりそれ以降はピートの採取ができなくなります。アイルランド:採取規制による間接的アプローチアイルランドは採取の規制という異なるアプローチを取っています。2019年の最高裁判所判決により、大規模採取には新たな環境保護ライセンスが必要となりました。アイルランド市場の約80%を占めている国営の泥炭採取業者Bord na Mónaは、これを受けて2020年には業務を完全に停止し、2050年までに温室効果ガス排出量をゼロにする目標を掲げています。EUの基本方針EUは泥炭地の保護のための政策アプローチを採用しています。主な施策は以下の6つの柱からなっています。財政的支援:炭素クレジットの枠組み構築や生態系サービスへの支払い泥炭地戦略:低炭素ラベルの導入や保護法の施行推進と認知:泥炭地を自然環境に基づくソリューションとして推進教育と情報提供:泥炭地管理の学位課程設置や研究支援保全と復元:泥炭地の再湿地化や保護ネットワークの構築土地利用と農業:湿地農業の支援や泥炭を使用しない園芸の推進ドイツ:EUの最大消費国としての責任このEUの方針を受け、EUで最大のピートの消費国であり、主要生産国でもあるドイツは、2026年までに家庭菜園用、2030年までに商業用での使用削減を目指しています。ドイツでは国内市場向けに年間約580万m³生産される培地のうち、70%以上(約420万m³)がピートモスで占めているため、この決定は大きな課題となっています。そのほか、スコットランド政府は、園芸用の泥炭の使用を2019年から2020年にかけて段階的に廃止する方針を発表しました。オランダやフランス、ベルギーは、泥炭地の管理や調査や評価などに焦点を当て、使用の制限は現段階では設けていません。オランダは泥炭地の管理に関して、再湿潤化に関する命令を出し、支援と資金が利用可能な地域でパイロットプロジェクト(気候バッファー)を開始しています。さらに、既存のビジネスモデルを活用しながら、これらの取り組みの規模拡大を目指している。北米の状況世界有数の泥炭地を有する北米では、ピートモスの重要性が認識されるものの、その具体的な動きには発展していません。カナダ:世界最大の泥炭地保有国の課題世界の泥炭地の4分の1を有し、世界最大の泥炭炭素貯蔵量を誇るカナダですが、その保護は十分ではありません。2023年時点で保護地域内にある泥炭地はわずか13%に留まります。また、14の管轄区域のうち、最新の気候計画で泥炭地の重要性を明示的に言及しているのは5つの管轄区域のみです。アメリカアメリカの規制状況は確認できませんが、環境保全の観点から自主的に取り扱いを中止するメーカーが出てきています。産業界の自主的な取り組みピートモスの規制環境は地域によって異なります。欧州では国ごとに規制レベルの差はあるものの、気候変動対策の観点から様々な規制措置を導入している国が目立ちます。一方、北米においては現時点で法的規制は設けられていません。しかし、規制の有無に関わらず、環境への配慮から独自の判断でピートモスの取り扱いを停止する企業が世界各地で見られるようになりました。将来的には、たとえ直接的な販売禁止措置が導入されなくても、採取過程での規制強化や環境影響報告の義務化などにより、ピートモスの取引価格が上昇する可能性が高いと考えられます。参考資料INTERREG CARE-PEAT European Peatland Policy RecommendationsHolger Braun, Dorothee Apfel, Benedikt Rilling, Carsten Herbes/ On the irrelevance of (peat-free) substrates - Qualitative insights into the social practices of hobby gardeners in GermanyLegal and Policy Options to Ban or Limit the Use of Horticultural Peat Moss in British ColumbiaCalls for peat products ban to be sped up