<目次>固形培地の一つにヤシ殻培地があります。一般的に国内でヤシ殻培地を使って栽培されている作物は、トマト、イチゴ、キュウリ、ピーマン、パプリカなどです。そのほかに栽培可能な作物はあるのでしょうか。ヤシ殻培地を含む固形培地での養液栽培が可能な作物の基本情報から、近年の動向、オランダの最近の研究などをご紹介します。技術を要し、単価が高い作物が養液栽培に適する基本的に養液栽培の固形培地耕で栽培できる作物であれば、ヤシ殻培地でも栽培できます。江口の論文より「養液栽培の種類」※江口(2021)をもとに作成トマト、キュウリ、ピーマン、パプリカ、メロンなどの果菜類の作物をヤシ殻培地で養液栽培される理由は、作物の販売単価が高く、高い栽培技術を要するためです。また、たいていの切り花(ガーベラ、バラ、スプレーギク、カーネーションなど)も養液栽培に適します。昨期が短く年間の回転数が多いミツバ、葉ネギなどの葉菜も養液栽培されることが多いですが、主に水耕栽培が選ばれます。固形培地での栽培に向かない作物は?たいていの作物が栽培できる固形培地ですが、栽培に向かない作物は、主にダイコンやニンジンなどの根菜類やイモ類です。これは、収穫物が土の中にあるため、隔離ベッドの大きさや形に制約を受け、品質がいい作物を作りにくいためです。ポット耕での栽培も可能ですが、反収、販売単価、コストなどが見合わない可能性が高いです。ただし、ヤシ殻培地を使った養液栽培でのサツマイモやニンジン栽培の研究(江口, 2021)も出てきているため、将来的には栽培、収益化する可能性もあります。葉物を中心にヤシ殻培地を使った実験結果は?ヤシ殻培地を入れた隔離ベッドを使って、ガラス温室で葉物野菜を中心に栽培実験を実施した吉田ら(2003)の研究では、葉野菜を中心に栽培できることがわかりました。(1)ベビーリーフベビーリーフの中のピノグリーン,タアサイ,ロシアンケール,千筋京水菜,レッドアジアンマスタード,マスタードグリーン,ビートなどがヤシ殻培地での栽培に適していることがわかりました。(2)根菜類はハツカダイコンのみ可能ハツカダイコンの栽培も可能で、根に付着しているヤシ殻は水洗いできれいに落ちるため収穫後の調整が容易でした。ただし、サラダゴボウやニンジンは収穫までの日数が長く、生育が不良で収量も低かったので、現時点では固形培地での栽培には向かないことがわかりました。(3)連続収穫が可能な作物もパセリ,カラシナ(グリーンマスタード、レッドマスタード)、スイスチャードなどの連続収穫が可能でした。出典:吉田千恵、戸祭章、岩崎泰永(2003)タイトル「供試品目の耕種概要及び調査結果」※注釈:本試験は冬場の試験(2002年11月から翌年3月)であったことから、他のシーズンでは収穫までの目数が短縮できると思われる。ポット耕での果物栽培もハウス内のポット耕で果物を栽培する生産者も増えています。ヤシ殻培地(45L)にピートモス(10L)を充填したハイブッシュブルーベリーのポット耕での養液栽培の実験(柴田,高田, 2017)では、露地ハウス養液栽培区はすべての品種(シエラ、バークレイ、デニースブルー、コビル)で定植2年目から収穫できました。また、5年間の1樹あたり累積収量は、ハウスでの養液ポット栽培が約15kg、露地が約 3kgとハウス養液栽培区が多いことがわかりました。ブルーベリーのほかに、露地で栽培されている果樹をヤシ殻培地で養液栽培をする事例も増加傾向にあります。ブドウ、イチジクなどや、お茶もポット耕で比較的うまく作れるようです。また、アボカド、パパイヤ、マンゴーなどのトロピカルフルーツのポット栽培や、コーヒー栽培も可能で、近年挑戦している生産者も増えています。▼コーヒーの栽培事例やまこうファーム事例現在研究中!ニッチ作物の養液栽培最後に、オランダで研究されている固形培地での養液栽培可能なニッチな作物を紹介します。・バニラ(ポットでの養液栽培耕によって、品質が安定し、バニリン含有量が調整可能)・黒コショウ・大麻・ブラックベリー、ラズベリーなど(LED補光でエネルギー効率よく栽培する研究も)・綿・大豆(固形培地を使った完全閉鎖型植物工場で、高タンパク質大豆の栽培研究も)作物の選定は経営視点も忘れずにヤシ殻培地を含めた固形培地では、さまざまな作物を栽培できます。ただし、作物を選定するときには、「栽培可否」だけでなく、作物の販売単価、可能な年間回転数(または連続収穫)、作物の生育に必要なコスト(例えば、栽培温度が高い作物だと、その分燃料コストが必要)なども考慮しましょう。主な参考文献江口壽彦(2021)「植物環境工学の研究展望」(第十二回)養液栽培と環境調節柴田昌人、高田万里子(2017)初期生育が優れ早期多収が可能なハイブッシュブルーベリーのハウス養液栽培吉田千恵、戸祭章、岩崎泰永(2003)期待される新野菜の固形培地耕栽培における生育特性