<目次>ヤシ殻培地を使った養液栽培では、水や肥料を入れた水分(かん水)に対して、一定量の排液が出ます。今回は、具体的な排液率の管理について、主にトマトを事例に解説していきます。排液率とは?排液率とは、給液量(かん水量)と排液量の比率(%)です。排水率安定させながら栽培されている方が多く、一般的に約8〜30%(気候や収量、味によって変動)で管理してる方が多いです。排液率が高いとかんすい量が多くなり、排液率が低いとかん水量が少なくなる可能性があります。排液中のECECとは、土中に含まれている肥料の総量のことをいいます。排液中のECを測定して、施肥設計を調整することが必要です。ヤシ殻培地での排液管理方法ヤシ殻培地とロックウール培地では、適正な排液率が異なります。ロックウールに比べてヤシ殻は、外からの要因に影響されにくく、培養液組成の変動が少ないという特徴によるものです。ロックウールの排液管理に関する研究は多々あり、給液・排液管理も確立されています。一方ヤシ殻培地については、まだ産地ごとに手探りで試行錯誤を続けている段階で、現時点で分かっていることは、以下に留まります。給液・排液管理方法(1)長段どりのトマトのヤシ殻・バーク培地での養液栽培では、給液量が多いほど収量が多い(2)排液量が多いと、肥料コストがかかる排液中のECの管理方法EC管理については、給液中のEC/排液中のECで管理する方法や、量管理方法などさまざまです。近年、ヤシ殻培地の廃棄の簡便さからその需要が高まっており、その研究も進んでいます。そこで、最近の研究事例をいくつかご紹介します。事例1:季節と天候で変わるミニトマトの排液率と給液量|愛知県目的:季節や天候毎の適切な排水率夏秋作ミニトマト栽培におけるヤシ殻培地での排水率は、晴天時にもしおれが出ないのは30%としています。7月~10月までの給液量ミニトマトの最大吸水量に対して排液率を30%以上40%以下に設定する必要があります。<具体例>気温の上がる7月から9月までの排液率35%程度で給液係数を各々1.54 (1/1-0.35)に10月の排液率一方、気温が下がって吸水量が減少していく10月の排液率は30%程度です。<具体例>給液係数は1.43(1/1-0.3)くらいに設定するのがよいとされています。さらに、曇雨天日はミニトマトの吸水量が減り、排液量が増加することから、 排液率が高まると考えられるため、かん水・給液量は天候に応じて変える必要があります。曇雨天日の吸水率曇雨天日のミニトマトの吸水量は、最大吸水量の約50%以下です。そのため、曇雨天日に手動で給液管理をする際には、給液量を約50%減らす必要があります。事例2:給液中のECと排液中のECの関係|島根県目的:給液中と排液中のECの関係ピートモス(10):ヤシ殻繊維(4):ヤシ殻チップ(5):ヤシ殻活性炭(1)の割合で混合した培地を発泡スチロール製のベッドに入れた、かけ流し方式の試験です。試験は、下記の条件下で行われました。条件:トマト:約4~6L(株間40〜50cm)給液EC:0.6〜1.0dS/m排液EC:0.35dS/m前後イチゴ:約3L(株間20cm)給液EC:0.4~0.8dS/m排液EC:0.2dS/m前後また、トマト、イチゴともに、排液中の硝酸態窒素濃度は10ppm、リン濃度は4ppmをほぼ下回ります。排液中のEC濃度も0.2〜0.4dS/mで推移しました。出典:笹川ら(2001-2005)島根型養液栽培システム利用による果菜類の生産安定事例3:肥料の「量的管理」を用いたトマトの長期どり栽培|千葉県目的:長期的に適正な早勢を維持するために必要なポイント7月に種したハウス促成トマト栽培での試験です。ヤシ殻培地を使用したこの実験では、EC制御によって培養液を肥料濃度で管理する「培養液濃度管理」ではなく、培養液を量で管理する「量管理法」を採用しています。量管理法とは?1日に一回、育成ステージに合わせた必要な肥料を、タイマー制御を使用した定量ポンプ等で与えます。EC制御法に比べると、コンパクトな草姿となり、収量や果実の品質が向上し、排液中の窒素成分が残りにくいことが知られています。さらに、季節や天候に合わせて、排液率が20~30%となるようにかん水量を調整します。そうすることで、水量は増えても1日当たりの施肥量は変わりません。このように、給液量と施肥量を分けて管理することで、長期栽培においても草勢が安定します。長期的に適正な早勢を維持するポイントは下記の通りです。栽植密度を2.6株/m2程度とやや密植に10a当たりの1日硝酸態窒素の施用量を:・定植以降50g・第1果房開花以降130g・第1果房着果(ピンポン玉大)以降250g・3月以降370g・主枝摘心以降120gを目安に施用することです(ただし、曇雨天時の施用量はこれらの半分)出典:農林総合研究センター野菜研究室(2016-2018)量管理的手法を用いたヤシ殻培地耕による長期多段どりトマト栽培排水率は30%を目標にココカラのヤシ殻培地は、排水率が高く、保水率も十分に高いため、排水率は30%以下を目安にするとよいでしょう。主な参考文献大野栄子、大竹敏也(2021)夏秋作ミニトマトのヤシがら培地耕栽培における給液量指針の策定島根農技セ・園芸部・野菜花きグループ、環境部・土壌環境グループ(2001-2005)島根型養液栽培システム利用による果菜類の生産安定農林総合研究センター 野菜研究室(2016-2018)量管理的手法を用いたヤシ殻培地耕による長期多段どりトマト栽培