気候変動に伴う自然災害や生物多様性の損失、都市環境の悪化などの課題に対して、自然環境が本来持つ機能を活用しながら解決を図る「グリーンインフラ」という考え方が注目を集めています。そこで、グリーンインフラの考え方や国内外の取り組み事例について説明します。グリーンインフラとはグリーンインフラは、米国で発案された社会資本整備や土地利用等のハードとソフト両面において、自然環境の機能を戦略的に活用し、持続可能で魅力ある国土や地域づくりを進める考え方です。米国で発案され、現在では世界各地で様々な形で展開されています。国内では、2013年頃にグリーンインフラの概念が導入され、2015年8月の国土形成計画以降に推進・強化が明記されるようになりました。2019年には「グリーンインフラ推進戦略」が公表されました。グリーンインフラは(1)防災・減災(洪水の抑制、土砂災害の防止、海岸侵食の防止など)、(2)環境保全機能(生物多様性の保全、水質浄化、CO2の吸収・固定など)や、気候変動対策機能(ヒートアイランド現象の緩和、都市気候の調整など)の環境、(3)地域振興(観光資源としての活用、レクリエーション空間の提供、環境教育の場の創出など)の各機能の重なる取り組みを指します。多くの場合、複数の機能が組み合わさって相乗効果を生み出します。グリーンインフラの事例(1)防災・減災防災・減災分野におけるグリーンインフラの代表的な事例として、六甲山系グリーンベルト事業があります。この事業では、都市に隣接する山麓斜面において樹林帯を整備することで、土砂災害の防止をしています。また、宮崎海岸での取り組みでは、自然の砂丘地形を活かしながら、環境に配慮した海岸保全を実現しています。具体的には、コンクリート護岸の代わりに砂浜に埋設される「サンドパック」を用いることで、景観や生態系への影響を最小限に抑えつつ、海岸侵食対策を行っています。グリーンインフラの事例(2)自然環境・地域振興環境と地域振興を組み合わせた事例として、山口県の一の坂川での取り組みがあります。この事例では、河川改修に際して生物や景観に配慮した「ホタル護岸」を整備することで、治水機能の確保とホタルの生息環境の創出を両立させました。その結果、地域の観光スポットとしても発展し、地域振興にも貢献しています。また、静岡市の麻機遊水地では、治水機能と湿地環境の保全を両立させながら、さらに福祉農園としても活用する複合的な整備を実施しています。この取り組みでは、行政、地域住民、福祉団体など多様な主体が連携することで、より効果的な運営を実現しています。グリーンインフラの事例(3)都市環境・地域振興都市部では、ヒートアイランド現象の緩和や生物多様性の保全、レクリエーション機能の提供などを目的として、様々なグリーンインフラが導入されています。例えば、以下が挙げられます。公共交通機関の緑化 鹿児島県鹿児島市の路面電車では、軌道敷を芝生化することで、ヒートアイランド現象の緩和に取り組んでいます。軌道敷の緑化は、都市景観の向上や騒音低減にも効果があり、さらに観光資源にもなっています。また、わずかな空間を活用して緑化を進める技術は、都市部における新たな緑化手法として評価されています。建築物の緑化 都市の温暖化対策として、建築物の屋上緑化や壁面緑化が積極的に進められています。東京都では一定規模以上の建築物に対して緑化を義務付けており、多くのビルで屋上庭園や緑化空間が整備されています。これらの取り組みは、建物の省エネルギー効果も高め、オフィスワーカーの休憩スペースとしても活用されています。雨水管理と組み合わせた緑化都市部における雨水対策として、雨水浸透型の緑化施設の整備も進んでいます。雨水浸透型花壇は、植栽による景観向上と雨水の浸透機能を兼ね備えており、都市型水害の軽減にもつながっています。都市部においても、グリーンインフラの考え方を取り入れることで、生物多様性に配慮した植栽計画や、雨水利用システムとの連携、地域コミュニティの活動拠点としての活用など、様々な付加価値を創出する試みが行われています。世界各国でのグリーンインフラの活用事例米国では、都市の緑地形成、特に雨水管理に重点を置いた取り組みが進められています。ポートランドでは、高層ビルの屋上緑化による雨水管理と建物保護の両立や、道路沿いの緑地に雨水を浸透させる「Green Street」の整備をしています。さらに、屋上緑化面積に応じた固定資産税の減税措置など、経済的インセンティブも導入されています。フランスでは廃線を活用し、線路を残しながら周囲を緑地として再整備することで、レクリエーションや生態系観察の場を創出しています。スペインのバルセロナでは、グリーンインフラと生物多様性に関して、都市の自然空間ごとに環境機能を評価する取り組みを行っています。英国では様々な便益の獲得を目指し、EUでは生物多様性保全を重視し、カナダやOECDでは低炭素化を含む環境問題全般を対象とするなど、それぞれの特徴が見られます。グリーンインフラに活用される培地このように、グリーンインフラの取り組みは、国内外で広がっています。さらにその効果を最大限に発揮させるためには、適切な培地の選択が重要です。一般的には、グリーンインフラで使用される培地は、大きく4種類に分類できます。1つ目は地域の土壌をベースとした自然土壌、2つ目はパーライトやバーミキュライトなどを配合した人工軽量土壌、3つ目はピートモスやバーク堆肥などの有機質系培地、そして4つ目は軽石やゼオライトなどを主体とする無機質系培地です。グリーンインフラの培地選択に際しては、技術的要件があります。例えば、保水性や排水性のバランスが求められます。また、特に屋上緑化では建物への負担を考慮した軽量化も必要です。さらに、長期的な品質の安定性なども考慮しなければなりません。今後は、これらの技術的課題を考慮しつつ、それぞれの用途に応じた最適な設計・施工方法を確立していくことが求められます。参考グリーンインフラ|国土交通省