コロナ禍で外出自粛が求められた影響で、日本では在宅時間が増え、家庭菜園を始める人が増えてきました。一方ヨーロッパでは、古くから家庭菜園が生活に根付いた文化として定着しています。このように日本とヨーロッパでは従来の家庭菜園事情に違いがありますが、近年では両地域で家庭菜園への関心が高まる傾向にあります。ヨーロッパでは家庭菜園をライフスタイルの一部と捉え、さまざまな家庭菜園ビジネスが生まれています。具体的な家庭菜園ビジネスの事例を交えながら、日本とヨーロッパの家庭菜園事情の違いを比較していきます。日本での家庭菜園日本では、もともと家庭菜園が生活の一部として親しまれてきました。高度経済成長期以降は都市化が進み、庭つきの住宅が減少する一方で、近年では食の安全や自給自足への関心の高まりから家庭菜園を楽しむ人が増えつつあります。2022年には日本の世帯の約13%が家庭菜園を行っていましたが、比較的、高齢者世帯が多いのが現状です。一方、コロナ禍で外出自粛が求められた影響で、在宅時間が増え家庭菜園を始める人も出てきました。新規需要の高まりから、スーパーでの種や苗の売れ行きが伸びるなど、家庭菜園ブームの兆しも見られました。ヨーロッパでの家庭菜園ヨーロッパ諸国では、かねてから家庭菜園が生活に根付いたライフスタイルとして定着しています。イギリスでの家庭菜園の歴史かつてのイギリスでは、上流階級によって親しまれてきたガーデニングですが、ヴィクトリア時代には、中流階級も親しむようになりました。さらに、第二次世界大戦中のイギリスでは、戦時中の食糧不足に対処するため、国民一人一人が自宅の庭や公園、空き地を利用して野菜やハーブ、果物を育てる「ビクトリーガーデン」と呼ばれる食料自給の動きが広がりました。戦後も、このような背景がヨーロッパでの家庭菜園文化の発展につながったと言われています。ライフスタイルとしての家庭菜園イギリスでは、今日も約36%が家庭菜園を行っています。基本的には、住宅の敷地が広く、87%の世帯には庭があることから、本格的な家庭菜園を行っています。その他のヨーロッパ諸国でも健康的な食生活や環境配慮、子育て教育につながるという理由から、多くの一般家庭で家庭菜園が楽しまれており、生活の質を高めるライフスタイルの一環として重要視されています。庭いじりを心身のリフレッシュや家族団らんの機会ととらえ、菜園を心の癒やしの空間と考えられています。また、自分で作った食材をふんだんに使った料理作りも、家庭菜園に付随した楽しみ方として定着しつつあります。※画像はイメージですヨーロッパの家庭菜園ビジネスこのような背景に、イギリスでの家庭菜園用製品への年間支出額は2025年までに65億£(約1兆2,000億円)以上になると言われています。そのため、ヨーロッパでは家庭菜園に関連するビジネスが次々と生まれています。ガーデンシェアリングドイツでは、200年もの歴史をもつ滞在型市民農園のクラインガルテンという農地の賃借制度があります。近年は他の国でも、「ガーデンシェアリング」と呼ばれるサービスが人気を集めています。自宅の庭や空き地を菜園として企業に貸し出し、管理は企業や土地所有者が行いますが、そこで収穫した作物の一部を受け取ることができます。手間がかからずに新鮮な野菜が手に入るというメリットがあります。菜園づくりのワンストップサービスドイツや北欧諸国では、「菜園づくりのワンストップサービス」も広まりつつあります。菜園の設計から苗や肥料の準備、定期的な手入れまで手伝ってもらえるため、初心者でも手軽に始められます。さらに、菜園の様子を見守るカメラ付きのサービスもあり、離れた場所からでも菜園の状況が分かるよう工夫されています。菜園つき住宅の分譲イギリスやオランダなどでは、住宅の敷地内に菜園スペースが設けられた新築住宅の分譲が増えています。住宅には、小さな専用の菜園エリアが確保されており、開発者は最初の設計から菜園を組み込んでいます。近年は、郊外の大規模開発でこうした菜園付き住宅地が人気を集めています。環境に配慮した住環境を求める家族層を中心に支持されています。入居時に家庭菜園のDIYキットが提供されるなどのサービスもあり、菜園初心者でも気軽に始められるのがメリットです。このようにヨーロッパでは、家庭菜園という身近な趣味を様々なビジネスの場面に取り入れて、新しい付加価値を生み出そうとする動きがみられます。単なる食材生産にとどまらず、体験価値やライフスタイル提案として家庭菜園がクローズアップされているのが特徴的です。※画像はイメージです参考文献・サイト家庭菜園の経験率(タキイ種苗)荒井政治(1989)イギリスにおける家庭菜園市場の成長,関西大学学術リポジトリUK gardening statistics(Horticulture magazine)