目次森林は、二酸化炭素の吸収源としての役割や生物の生息地としても極めて重要な存在です。しかし、森林伐採による農地開発や、そこでの商品作物の生産拡大などを背景に、世界の森林面積は年々減少傾向にあります。こうした状況を受け、欧州連合(EU)は2023年6月、森林破壊に繋がる商品のEU域内での流通を制限する新たな規則、「EUDR(欧州森林破壊防止規則)」を制定しました。この規則は、グローバルなサプライチェーンを通じて間接的に森林破壊に加担することを防ぐことを目的としています。日本を含む多くの国々は、EUとの貿易をしているため、EUDRへの対応は大きな変化となります。さらに、EUDRを契機として、各国でも同様の規則が導入される可能性があり、この動向を知っておく必要があります。そこで、EUDRの概要と背景、日本の農業者や事業者への影響、そして日本でも同様の規制が導入される可能性について説明します。EUDR(欧州森林破壊防止規則)とは EUDRは、2023年6月に制定された森林減少防止に関するEUの新しい規則です。この規則は、EU域内で流通する特定の品目(牛、カカオ、コーヒー、アブラヤシ、ゴム、大豆、木材及びその関連製品)について、2020年12月31日以降に森林減少を引き起こしていない土地で生産されたことを証明することを義務付けるものです。当初は2024年12月から適用開始予定でしたが、1年延期され、2025年12月30日(中小企業は2026年6月30日)からの適用開始が予定されています。政策導入の背景 この規制が導入される背景には、世界の森林減少問題があります。国連食糧農業機関(FAO)によると、1990年以来、4億2千万haもの森林が減少しており、2000年から2018年の森林減少の約90%は農業利用への転換が原因とされています。特に熱帯雨林地域では、大豆やパーム油、ゴム、カカオ、牛肉といった商業生産の拡大が森林減少の主要因となっています。それを抑制するために、EUDRが導入されることになりました。規制の対象となるのは、牛、カカオ、コーヒー、アブラヤシ、ゴム、大豆、木材の7品目とそれらの関連製品です。対象製品をEU域内に輸出する事業者は、製品が「森林減少フリー」であることを証明し、生産地の地理情報を提供し、デューデリジェンスステートメント(適正評価手続き声明)を作成し、提出する必要があります。また、生産国の関連法規への適合性も示さなければなりません。日本の農業者や事業者への影響は日本の農業者や事業者への影響としては、特に牛肉の輸出において大きな変化が予想されます。2023年6月29日以降(規則発効日)に生まれた牛の肉(実質的には2025年末以降に輸出される牛肉)が規制対象となり、出生からと畜までのすべての飼養施設の情報提供や、森林減少フリーであることの証明が必要となります。これに対応するため、日本では農林水産省を中心に、農家や関係団体への周知活動が進められています。また、輸出事業者とEUのインポーターとの連携支援も行われる予定です。さらに、他国のカカオやコーヒー豆などを使用した製品を国内で加工し、EUへ輸出する際にも規則への適合が必要となる場合があるため、注意が必要です。日本は森林減少リスクの低い国として分類される見込みですが、規則への対応は必須となります。国内で類似の規則が導入される可能性は日本で類似の規則が導入される可能性はあるのでしょうか。気候変動対策や生物多様性保全の観点から、世界的に森林保護が重要だと考えられており、日本も国際社会からの要請を受ける可能性は十分にあります。実際に森林管理でいうと、「合法伐採木材等の流通及び利用の促進に関する法律」(クリーンウッド法)など森林原材料の情報の収集や合法性の確認、記録などが義務付けられるようになります。また、日本国内でも環境問題への関心が高まり、企業にも持続可能な調達や生産が求められるようにもなっています。国内の森林減少リスクは比較的低いと考えられますが、輸入品の管理も含めた法整備が求められる可能性があります。以上のような点を考慮すると、日本でもEUDRに類似した法規則が導入される可能性は十分にあると言えます。そのため、日本の農業者や関連事業者は、こうした国際動向にも注目しつつ、持続可能な生産や調達に向けた取り組みを進めていくことが重要です。参考EUの森林減少防止に関する規則への対応について|農林水産省