<目次>近年、農業分野においても「環境への配慮」が大きなテーマとなっています。施設園芸分野においても、養液栽培で使用した排液の循環や二酸化炭素の排出量削減、エネルギーの効率化など、環境に配慮した取り組みが重要視されています。日本ではまだ、排液を施設の外に出すことができますが、環境意識の高いヨーロッパ諸国では、年々規制が厳しくなってきています。今回は、オランダにおける排液の循環に関する規制と、排液の処理方法・浄化再循環方法について解説します。また、排液処理システムを導入する際のポイントについても触れているので、参考にしてみてください。水と肥料の再循環で環境負荷を減らす園芸作物の養液栽培のメリットは土壌の性質によって作物の生育や収量が左右されないという点です。しかしそこには、「高品質な水」と「肥料への投資」が必要不可欠です。この貴重な資源である水と肥料を上手に再循環し、環境への負荷を減らすことは、結果的に生産者の皆さんの収益にも繋がっていきます。日本における排液処理方法養液栽培は、窒素、リン、カリ、カルシウム、マグネシウム、硫黄、ホウ素、鉄、マンガン、亜鉛、モリブデンなど必須元素を肥料として施用します。これらは作物の成長に欠かせない培養液になるのですが、使用後は排液となり、適切な処理が必要になります。現在日本で実用化されている処理方法である硝酸性窒素除去方法には、従属栄養脱窒や独立栄養脱窒などの生物的処理方法と、イオン交換や逆浸透、電気解析などの物理、化学的処理方法があります。今後日本でも「排液基準」が厳しくなることを見据えて、他国の排液処理事情から学ぶべることは数多くあります。EUにおける排液処理規制EUでは、農業排液に含まれる硝酸態窒素やリン対策のために規制が設けられています。特に施設園芸が盛んなオランダでは、2000年以降は培養液を施設外に排水させることが禁止されてます。つまり使用後の培養液を回収し、その排液を再処理して再循環させなくてはいけません。さらに同国では、2013年に排水の浄化義務が発表され、未処理の排液や地表水内のろ過水の排水も一切認められなくなりました。また、2018年以降は、排液から作物保護剤と肥料の残留物の95%以上を除去することが義務付けられています。その他のEU諸国においても、排液に関する規制は年々厳しくなる傾向にあります。排液再循環のメリット培養液の排液を処理し、再循環するメリットは多々ありますが、生産者にとっての一番のメリットは、肥料代と水道代の節約です。水資源が豊富な日本では、なかなか実感できないかもしれませんが、マクロな視点で見れば、水も限られた資源であり、大切にしていかなければいけません。そしてもちろん、排液の再循環は土壌汚染や水質汚染を防ぐことができます。排液再循環のデメリット排液の再循環にはデメリットもあります。たとえば排液中の塩分濃度が高い場合、再循環が困難または不可能になります。また閉鎖型の施設では、排液の消毒が適切に行われないと、再循環養液を介して病原体が広がる恐れがあります。そして、消毒の設備投資には、それなりのコストがかかるのが現状です。再循環のための排液消毒方法オランダをはじめとしたEU諸国では、再循環溶液による病原体の拡散を防ぐために、消毒には細心の注意を払っています。排液消毒にはさまざまな方法がありますが、一般的に知られている方法は、UV処理、オゾン処理、二酸化塩素処理、フィルター処理、熱処理などです。各消毒方法にはそれぞれ長所と短所があります。オランダの温室園芸処理施設の評価委員会(BZG)では認証した消毒システムのリストを公開しているので、その中からいくつか解説していきます。(1)UV処理方法紫外線(UV)によって、微生物を含む水や空気、また固体の表面を消毒する排液処理方法です。ワーゲニンゲン大学の研究によると、水系病原体を殺すにはUV(紫外線)照射が最も効果的であることがわかっています。UVによる消毒方法には低圧と中圧があります。DNAを分解するためには、254nmの波長で照射する必要があり、これは低圧UV消毒でカバーできるようです。低圧UV消毒は、何も添加しないため水の組成を変化させず、病原体の99.9%殺すことができます。また排液中に残る肥料を再循環させることで、肥料代を最大50%節約できます。照射時間や消毒効率、必要エネルギーなどを考慮すると、中圧より低圧UVの方が運用上のメリットが大きいです。しかし他のUV消毒方法に比べて初期投資が高いというデメリットがあります。UV処理は、基本的に他の技術よりも導入費用が高く、排液の状態によって水のUV透過率も変わる点がデメリットとして挙げられます。(2)オゾン処理方法オゾンは酸素から成る天然ガスで、農業用水の排液処理だけでなく飲料水の浄化にも使用されています。オゾン分子が酸化可能な物質と接触すると、排液中にオゾンを添加して臭気やかび、バクテリアなどの微生物を酸化させ、排液中の細菌、ウィルス、臭気を処理します。処理後の水中酸素レベルが、処理前の300〜400%まで上昇することもあり、栽培にも大きなメリットがあります。またオゾンは、水中を自由に移動できるため、排液の透過率に影響を受けません。さらに、オゾンを生成するために必要な圧縮空気と電気は、消費電力もメンテナンスコストも比較的安価です。(3)過酸化水素処理方法過酸化水素を排液に添加し、更に過酸化水素とラム派分散超音波振動測定法や、過酸化水素とUVなどを組み合わせたシステムによって、排液から植物保護剤を除去します。組合せるものにもよりますが、比較的安価でシンプルなシステムと言えます。また超音波を組合せることで、石英管の洗浄もできます。(4)カーボンフィルター処理方法活性炭を組み合わせ、不要な有機不純物を吸着して除去するカーボン(炭素)フィルター方法です。粒状の活性炭による吸着を活用したシステムで、使用方法も簡単で導入価格も低く抑えることができます。粉末、粒、繊維など異なる形状の活性炭を組み合わせて使用することもあります。ただし、定期的なフィルター交換が必要になります。(5)その他その他にも、紫外線と水素を組み合わせたシステムや、分子吸着と酸化を組み合わせたシステムなど様々な排液処理方法があります。またナトリウム除去に特化したシステムも、少しずつ増えてきています。従来の熱処理方法などもありますが、ガスを消費するため環境配慮と相反している点、熱された温かい水には酸素が含まれていない点は留意してください。このように、排液処理方法も多種多様で、それぞれにメリットやデメリットがあります。目的や予算、施設に合った処理方法を選んでみてください。導入時に考えておきたい5つのポイント数ある排液処理方法の中から、目的や予算、作物、施設に合った方法を選択することはとても重要です。そこで、排液処理システムを導入する際に考えておきたい5つのポイントをあげてみます。します。1.すべてのオプションを検討してみよう!各排液処理システムにはそれぞれ違ったメリットデメリットがあります。例えば、安全だと言われているUV処理ですが、シルト含有量が多い場合には使用できません。導入前には、全ての方法で仮説を立てて検証してみることをオススメします。2.同業他社を訪問して情報を収集しよう!排液処理システムを導入している同一作物生産者や企業から直接話を聞くことで、有意義な情報を得ることができます。水中のオゾンレベルが高い場合、ピシウム病が発生する作物があること、オゾン処理は除放性肥料(作物の生育に合わせて肥料成分が溶出する肥料)と拮抗する可能性があることなど、実際に生産者や企業を尋ねることで得られる情報も多々あります。3.確実に消毒ができ、施設に合ったシステムを選ぼう!排液の処理と再循環においてもっとも大切なポイントのひとつは、病原体を広めないように確実に消毒をすることです。1回の作物の損失は、消毒システムの設置と運用の約10倍費用がかかると言われています。物理性、化学性、生物性のアプローチを適用し、適切に消毒ができるシステムを選びましょう。処理能力や、容量、エネルギー使用量はシステムによって異なります。さらにインライン、貯蔵タンク内、燃料貯蔵タンク(サイロ)上など、どこで消毒をして再循環させたいかによっても導入するシステムが異なるので、施設と戦略に合ったシステム選択は重要です。4. メンテナンス費用も考慮した長期的なファイナンシャル設計が大切!排液処理システム導入の経済的なメリットは、長期的な目で見る必要があります。システム導入の際には、あらかじめ長期的にかかるメンテナンス費用も考慮したファイナンシャル設計が必要です。5. 環境に配慮した会社としての認知にも繋がる!農業も工業もサービス業も、企業としての環境への配慮が求められる時代です。排液処理システムを導入することで、地球環境に優しい農業を営んでいることを認知してもらい、消費者や関連会社からの信頼を得ることも大切です。参考サイトhttp://www.pref.shizuoka.jp/sangyou/sa-325/hiryou/documents/sehi16-dai3bu7.pdfhttps://circabc.europa.eu/sd/a/abff972e-203a-4b4e-b42e-a0f291d3fdf9/SWD2017ENV4P1_885057.pdfhttps://www.helpdeskwater.nl/onderwerpen/emissiebeheer/agrarisch/glastuinbouw/BZG-lijst zuiveringsinstallaties glastuinbouw